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着席保証列車の考察

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◾️増え続ける着席保証列車

近年、私鉄での座席定員制の列車が増え続けている。

 関東では、

TJライナー(東武)

・Sトレイン(西武、東京メトロ)

・さがみ、メトロさがみ(小田急東京メトロ)

スカイツリーライナー(東武)

関西では、

・泉北ライナー(南海、泉北高速)

・ライナー(京阪)

が挙げられる。

また、既存の列車のテコ入れとしては、

・モーニングウェイ、メトロモーニングウェイ(小田急東京メトロ)

・モーニングウイング(京急)

が挙げられる。

 

◾️記事内での名称について

上記で提示した各列車を「着席保証列車」と総称させていただく。

 

 ◾️付加価値としての着席保証

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近年の市場のトレンドとして、付加価値というものがある。高品質なものを手にする、モノだけではなく空間に対価を払うなどである。一番分かりやすい例は、スタバである。商品によってはやや高額なものがあるなか、日本中で多くの支持を得られているのは、商品と空間が良質だからである。 

通勤時間帯の着席保証の列車は、まさにその付加価値型のサービスである。

絶対に座れる、車内でコーヒーが飲める、Wi-Fi環境が完備されているというのは数百円の追加料金に対して非常に価値が高い。

  

◾️リスクの低い列車設定

どの会社でも共通していることが、列車設定へのリスクが低いことである。巨額のインフラ整備と比較して、列車を設定するだけならコストが低いが、それに加えて

1.極端なダイヤ変更を行わない

2.一般車との兼用車両を導入

3.従来の発券システムを流用、あるいは将来的な活用を見据えた導入

といった保険をかけていること挙げられる。

 

1は、多くの列車が最も混雑の激しいターミナル駅到着が8時台の列車を避けている。最混雑時間帯への列車設定が理想ではあるが、既に容量いっぱいのダイヤへ輸送量の小さな列車を入れるのは混雑率の上昇へと繋がりかねない。

2は、ロングシートクロスシート転換車両の導入し、旧型車両の置換えを兼ねて導入している(東武、西武、東京メトロ、京王)。あるいは、もともとグレードの高い車両だがドア数の制約などでラッシュ時に運用しにくい車両を着席保証列車に充当する(京急、京阪)。

3は、着席保証列車のためだけに1からシステムを開発するのではなく、グループ会社のシステムを流用したり、将来的に導入を想定している有料特急列車への前投資として構築していたりする(西武、東京メトロ、南海、泉北高速)。

 

これらの保険をかけることで、万が一、乗客がつかなくても損失が最低限に抑えられるようになっている。

 

◾️会社ごとの特徴

導入は相次いでいるが、各会社によってパターンは異なる。ここでは「泉北ライナー」「Sトレイン」「ライナー(京阪)」の3つを取り上げる。

 

◯特急誘導に近い「泉北ライナー」

泉北高速鉄道和泉中央から南海本線の難波まで運行している。

初期投資としては、発券システムや車両は南海のものを流用、借用したため比較的安価だったと思われる。一方、ダイヤ構成は非常に思い切り、通勤時間帯も含めて泉北ライナー優先の設定とした。そのため、導入当初は利用客からの評判も芳しくなかったそうだ*1

それでも、キャンペーンの展開、専用車両の導入とテコ入れを続け、ついに増発にまで漕ぎ着けた。着席保証列車の定着にかかる時間と手間をよく示した例である。

ただ、着席保証列車としての成功というよりは、特急列車への乗客誘導の向きもあるように感じる。

 

◯全部入りの車両により実現した「Sトレイン」

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西武池袋線の所沢から東京メトロ有楽町線豊洲まで運行を行なっている。

初期投資としては発券システムはレッドアロー号のものをベースとした。ただし、券売機を他社線を巻き込んで増設したため大掛かりな改修になったと予想される。

着席保証の列車としての運用は、朝は早い時間に1本のみ。夕方は3往復あるが三時間ヘッドであり、どちらにせよ使い勝手は良くない。ただしこれは車両がまだ出揃っていないためやむを得ないこと、会社側も様子を見て決めかねていることを考えると仕方がないかもしれない。

Sトレインで特筆できる点は、車両の運用にある。充当される西武40000系ロングシートクロスシート転換車両であり、平日には一般の列車にも充当される。さらに、休日にはみなとみらい線元町・中華街から西武秩父線西武秩父を走行する。

通勤車と着席保証列車、休日の行楽輸送と一つの車両で何でもできる仕様にしたことで列車自体がどう転んでも使えるようになっている*2

運行開始から5ヶ月ほど経つが、最近は広告を大きく出したりキャンペーンを行なったり大々的なPRを行なっている。乗客が伸び悩んでいた頃の泉北ライナーの印象とかぶる。 

ちなみに、デビュー予定の新型特急車は、イメージを見ると地下鉄乗り入れに対応しているようである。東京メトロや東急では券売機設置などの設備改修を行なったが、Sトレインが新型特急への布石となる可能性もある。

 

◯プレミアムカーと並ぶもう一つの目玉となるか。「ライナー(京阪)」

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京阪本線枚方市、樟葉から淀屋橋まで朝に一本ずつ設定されている。しかし他に名前はなかったものか。

この列車は、登場の経緯が独特である。

発端は、8000系特急型電車に指定席「プレミアムカー」を連結することからはじまる。車両の大改造、他の形式の組成変更や運用変更を伴う大プロジェクトであった。 その最中でライナーの運行開始が発表された。

そのため、発券システムや車両への初期投資は全てプレミアムカーのシステムに付随している。一般車の座席管理や車両への座席番号貼り付けなどの作業は加わったが、他社と比較すると特別なことを行なった割合は低い(ような気がする)*3

車両は、朝ラッシュ時には運用のない8000系を充当している。朝ラッシュ時以外は無料特急で運用される。

京阪の朝ラッシュは結構混雑をしているが、関東と比較すると緩いほうである。そのため、利用客が「お金を払ってでも乗りたい」と思うようになるかは今後のPRにかかっている。

 

◾️鉄道ファンによるダメ出しについて

着席保証列車が登場する度に、鉄道ファンが「◯◯はガラガラだからすぐに廃止になる」「◯◯の設備は関西なら無料だから料金をとるのはぼったくりだ」「◯◯は停車駅が少ないのに遅い」という意見が必ず出てくる*4。なかにはYoutuberを気取った人間がガラガラだと揶揄しているものも見かけるが、そこまでいくと気分が悪い。

そもそも、複々線化や増発といったように即効性のあるものではなく、単に便利で速い列車というわけではない。前述したように、本来の輸送力を落とさないために最も効果的な時間への設定が困難である。

鉄道ファン諸氏は混雑時の利用方法や様々な設備を知っているため、無駄なものと思うようだ。しかし、利用するのは一般の乗客である。成功か失敗かは利用者が座れるという付加価値をどう捉えるかで決まる。数日から数ヶ月で存廃が決まるような列車ではなく、中長期的な視点で決めていく必要がある。すぐに断定せず、あたたかい目で見守ってほしい。

 

*1:実際、知り合いの泉北線ユーザーは全員文句を言っていた

*2:それ故に中途半端な印象がなくもないが

*3:仮にライナーがこけても観光シーズンに座席指定列車を設定するとか出来そうなので、作っておいて損はないシステムになった気がする

*4:今まで聞いたなかで一番酷かったのは、「Sトレインはもう廃止すると社内で決まっているらしい」という話があった